はじめまして、オランダ出身の蘭です。オランダと日本、二つの言葉や文化を通して感じたことを綴っていきます。
今回は、ディック・ブルーナさんが晩年に手がけた絵本、
『ezelsoor(発音:エーゼルスオール)』のお話をします。
実はこの絵本、オランダ語版しか出版されていません。
なぜでしょう?

絵本に登場するオランダ語の表現を、
日本語に翻訳するのがちょっとむずかしいからかもしれません。
今日9月30日は「#世界翻訳の日」ということで、
なぜこの絵本は翻訳がむずかしいのか、お話ししますね。
タイトルの「ezelsoor」を直訳すると、「ロバの耳」ですが、
この言葉には、「本のページの角を折って、しおりにする」という意味もあります!
英語にも「ドッグイヤー」という言い方がありますよね。
みなさんには、折ったページの角が、犬の耳に見えますか?
それとも、ロバの耳に見えますか?
この本は、動物が登場するオランダ語のユニークな言葉を、
ブルーナさんの楽しいイラストと合わせて紹介している絵本です。
さて、絵本に登場する言葉は、日本語でも通じるのでしょうか。
いくつか一緒に見てみましょう!

このイラスト、ご覧になったことはありますか?
だれか、木の後ろに隠れていますね。
よく見ると、うさぎです!
いったい、どうして隠れているのでしょうか。
オランダ語には、すぐに怖くなったり、びくびくしてしまう人のことを
「angsthaas(直訳:怖がりウサギ)」と呼ぶ習慣があります。
怖がりだから、隠れているんですね。
「angst」は「怖がり」や「恐怖」
「haas」は「うさぎ」や「ヤブノウサギ」
自然の中でうさぎは、少しでも危険を感じると、スタコラと逃げていくもの。
そんな姿を思い浮かべると、「怖がりウサギ」という言葉も、なんだか分かる気がしますね。
たとえば、小さなクモを見るだけで、
「きゃー!」と叫んで逃げる人。
そんな人を見たら、「ちょっと怖がりウサギだね!」というように使います。

この絵本には、もうひとつおもしろいところがあります。
イラストに合わせて、言葉がブルーナカラーで色づけされているんです。
(コラム: 6色のブルーナ・カラー)
ブルーナさんの絵本は、通常、左側のテキストのページには色が付いていませんが、
文章まで色がついていると、なんだか新鮮な感じがしますね。

このイラスト、ブタがパーティーハットをかぶっているのは、
なぜでしょうか。
「feestvarken(翻訳:お祝いのブタ)」とは、
お祝いのためにパーティーを開いてもらった人や、
その場で特別にお祝いされる主役の人物のことを言います。
「feest」は「お祝い」、
「varken」は「ブタ」という意味。
この「feestvarken お祝いのブタ」という表現の由来には、
いろいろな説もありますが、なんと何百年までさかのぼるのです。
当時、職人たちが年に一度、大きなお祭りを開いていました。
そのお祭りのときに、牛などの動物を大きく育て、
飾りつけをして、街の中を連れて歩いたのだそう。
その後、連れて歩く動物は牛からブタへと変わっていったそうです。
お祭りの主役だった動物が、
いつの間にか、お祝いされる人を表す言葉になったんですね。
昔からある言葉が、今でも日常的に使われているなんて、
なんだかおもしろいですね!

最後に、もう一度、表紙に戻ってみましょう。
右上にリンゴのイラストのステッカーが付いています。
「oogappeltje」(複数形は「oogappeltjes」)を直訳すると、
「目のリンゴちゃん」という意味になります。これは動物ではなく、果物が登場する表現です!
「oog」は「目」、
「appel」は「リンゴ」、
「tje」は「小さいものや、かわいらしさを表す接尾辞」
「oogappeltje」は、
「とても大切に思っている人」や
「最愛のもの、お気に入りのもの」など、
自分にとって特別な存在を表すことば。
特に、親が自分の子どもに対して使うことが多いです。
例えば「○○ちゃんは、パパのoogappeltje(目のリンゴちゃん)だね!」といったように。
なんだか、とっても愛情が伝わってくることばですね。
絵本には、まだまだたくさんの表現が登場しますが、
今回はここまで!
ブルーナさんの日本語に翻訳されていない作品について、
少しでも、そのイラストに込められた背景やことばを知っていただけたらうれしいです。
それでは、また次のコラムで!
蘭