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ディック・ブルーナ 制作過程

きょうは「紙の記念日」なんだそうです。

そう聞いて、まっさきに思い浮かんだのがブルーナさんのことでした。

みなさんはブルーナさんがどんなふうに絵本のイラストを描いていたか、知っていますか?

「紙に描いて、色を塗る」

そんなシンプルな制作風景を思い浮かべる方も多いかもしれませんが
私たちがよく目にしているブルーナさんの絵は、少し違う方法で作られています。

ブルーナさんのイラストは、何枚もの紙や素材を行き来しながら描かれているんですよ。

きょうは、そんなブルーナさんの絵の制作過程をご紹介させてくださいね。

トレーシングペーパー

最初に使うのは、トレーシングペーパー。
そこに鉛筆で下書きをします。

ディック・ブルーナ 制作過程

ミッフィーを描いたことのある人なら、きっと分かると思います。
あの形、驚くほどかんたんなのに、驚くほどむずかしい。
耳の長さ、目の位置、バッテンの角度。
ほんの少しずれるだけで、「あ、ちがう」と感じてしまう。

ブルーナさん自身も、納得がいくまで、100枚以上描き直すことがあったそうです。


シンプルな絵だからこそ、ごまかしがきかない。
そんな厳しさと、向きあっていたのだと思います。

水彩画用の厚紙

下書きができたら、水彩画用の厚い紙へ。
トレーシングペーパーを重ね、鉛筆でなぞることで、線を「へこみ」として紙に残します。
清書のための道しるべです。

ディック・ブルーナ 制作過程

そのへこみの上を、筆で丁寧になぞっていきます。
点を置くように、ゆっくり、ゆっくりと。

ディック・ブルーナ 制作過程

ブルーナさんの線に見られる、わずかな「ふるえ」。
それは、ブルーナさんの息遣い、そして心の動きそのもの。

ちなみに、ミッフィーを描くときは、必ず「耳」から描き始めていたのだそうですよ。

透明なフィルム

仕上がった線画は、透明なフィルムに焼き付けられます。
このフィルムが、絵本の中の、あの黒い線になるんです。

ディック・ブルーナ 制作過程

厚紙の枠

ブルーナさんの絵本は、正方形。
ページのどこに、この絵を置くのか。
余白をどう残すのか。
正方形の厚紙の枠を当てながら、試行錯誤して決めていきます。

ディック・ブルーナ 制作過程

位置が決まったら、それに合わせて、透明なフィルムを正方形に切り取って。

ディック・ブルーナ 制作過程

ブルーナカラーの色紙

色は、塗るのではなく、切る。

ブルーナカラーと呼ばれる6色の色紙を、パーツごとに切り分けていきます。
ここでも、トレーシングペーパーが使われます。
形を写し、へこみをつけ、その線に沿って切っていくのです。

ディック・ブルーナ 制作過程

「洋服の色を変えたいな」
そんなときは、ここで色紙を入れ替えれば、別の色のお洋服になりますね。

6色のブルーナカラーについても、語りたいことがたくさんあるのですが、それはまた別の機会に。

こうして、黒い線のフィルムと色紙を重ねることで、絵が完成します。

ディック・ブルーナ 制作過程


ブルーナさんの絵本は、こんなにも時間と手間のかかる方法で作られていました。
でも、その過程を経たからこそ、あのやさしさと強さが表現できるのかもしれませんね。

今度絵本を開くとき、もしよかったら
制作の風景を少しだけ思い浮かべてみてください。
ブルーナさんの気配が、ふっと近くに感じられるかもしれません。

みかん

参考文献
『ディック・ブルーナのデザイン』芸術新潮編集部 編、新潮社、2007
『ディック・ブルーナのすべて 改訂版』講談社、2018
『ブルーナが語る ミッフィーのすべて』MOE編集部 編、白泉社、2017

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